東京地方裁判所 昭和47年(ワ)3158号 判決 1974年11月28日
原告
桜島安由
原告
桜島ツヤ
右両名訴訟代理人
元田弥三郎
外二名
被告
東京都
右代表者
美濃部亮吉
右指定代理人
山本政喜
外三名
被告
松山猛
被告
松山博之こと
金鴻宙
右両名訴訟代理人
竹谷勇四郎
外二名
主文
一 被告松山猛、同金鴻宙は各自原告らに対し、各七百参拾万円およびうち各六県六拾五万円に対する昭和四拾七年参月拾四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告松山猛、同金鴻宙に対するその余の請求及び被告東京都に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用中、原告らと被告松山猛、同金鴻宙との間においては、原告らに生じた費用の五分の弐を右被告ら両名の負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告東京都との間においては全部原告らの負担とする。
四 この判決は、主文第壱項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求める裁判
一、原告ら「被告らは各自、原告らに対し、各一七、七三五、五六二円およびうち一六、一一七、三二〇円に対する昭和四七年三月一四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。
二、被告ら「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。
第二 原告らの請求原因
一、事故の発生
亡桜島真人(以下「真人」と称する。)は、昭和四七年三月一四日午後四時三〇分頃、東京都北区豊島三丁目一六番一九号先豊島中央商店街通り(以下「本件道路」という。別紙図面参照。)を歩行中、被告金鴻宙(以下被告金という。)が、王子駅方面(南側)から紀洲神社方面(北側)向け時速約四〇キロメートルの速度で運転するライトバン(足立四四さ九一〇〇号、以下「加害車」という。)。に衝突され、頭部打撲の傷害を受け、その結果頭蓋内損傷により翌一五日午前七時三七分頃死亡した(以下「本件事故」という。)。
二、責任原因<以下略>
理由
第一被告都に対する請求
一事故の発生
真人が、昭和四七年三月一四日午後四時三〇分頃、原告ら主張の場所を歩行中、被告金が王子駅方面から紀洲神社方面向け時速約四〇キロメートルの速度で運転する加害車に衝突され、原告ら主張の傷害を受けて翌一五日午前七時三七分頃、死亡したことは、当事者間に争いがない。
二本件道路および付近の状況
<証拠>によると、次の事実が認められる。
(一) 本件道路附近の状況
本件道路は、別紙図面のとおり豊島中央商店街通りといい、本件交差点から北方紀洲神社方面に通ずるアスファルト舗装、車道幅員約六メートル、その両側の歩道幅員2.5メートルないし3メートルの一般の交通の用に供される区道である。その車道と歩道との境界は段差となつて車道が低く、本件交差点に近い南口付近の一部にガードレールが設けられている。
本件道路の南側は、別紙図面のとおり豊島三丁目交差点という五差路交差点となつている。この交差点を通る王子駅方面から東北方向の西新井方面に向う道路はアスファルト舗装、車道幅員約六メートル、その両側の歩道幅員約2.5メートルの王子金町線という都道で、バス路線であり、交通量は多い。右都道が本件交差点の東北側(西新井より)と西南側(王子駅より)とに接する部分と、右都道の西北側(本件道路より)でこれに沿つた部分とに別紙図面のとおり三本の横断歩道が設けられている。
本件交差点の西南側(王子駅より)の横断歩道のさらに西南の地点(右交差点の西南端から約一〇メートルの地点)に本件停止線がある。
(二) 本件信号機、本件歩行者専用標識の設置
本件交差点の東北側横断歩道の西北側に王子駅方面に向つてA信号機が、本件道路南口東側に本件交差点(とくに堀船二丁目から通じる道路に向つてB信号機が各別紙図面のとおり設置されている。これらには原告ら主張の点滅ないし進行方向指示の措置はされていなかつた。本件事故当時AB信号機は平常時と同様作動していた(本項の事実は争いがない。)。
なおAB信号機は青・黄・赤・全赤の三色燈火を有し、同時に互に逆の意味の燈火を現示する。
王子警察署長は昭和四六年九月豊島中央通り商店会の要望により一か月間に限り毎日午後四間から午後七時までの間、本件道路を歩行者専用とする交通規制(いわゆる歩行者天国)を実施し、順次更新してきた。
これが終るやひきつづき、都公安委員会は昭和四九年一月二八日本件道路につき毎日午後四時から午後七時まで自転車および歩行者専用とする交通規制(いわゆる歩行者天国)を実施し、本件停止線から約二四メートる北方の本件道路南口左側と右側とに、別紙図面のとおり、本件歩行者専用標識を設置した(本項の事実は争いがない。)。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
三本件信号機、本件歩行者専用標識の設置権限
都公安委員会は、道路における危険を防止し、交通の安全を図るため、必要な信号機又は道路標識を設置する権限を有し、本件信号機および本件歩行者専用標識を設置したことは当事者間に争いがない。
してみると、被告都は、その機関である都知事の所轄下にある都公安委員会の設置又は管理に係る本件信号機および本件歩行者専用標識が、本件道路交通の安全を確保すべき、公の営造物として本来具備すべきき安全機能を全うし得ない状況にあるため、原告らに損害を生じたときは、国家賠償法二条により、これを賠償する義務を負う。
四本件信号機の設置管理の瑕疵
右各事実にもとづき考察する。
本件道路の歩行者専用時間中本件信号機につき、青色燈火の表示を止め赤色燈火だけにすると、対面する車両は本件交差点への進入が出来なくなり、現場付近の道路状況に鑑み円滑な交通を阻害し、その影響が大きい。また本件信号機を点滅信号のみとしても混乱を生じる。更にAB信号機の横に指定方向外進行禁止の標識およびその規制時間を示す標識を設置し車両の本件道路への進入を制限することは適切でない。即ち本件道路の歩行者専用時間中すべての車両の通行が禁止されたのではなく、しかもその時間は三時間に過ぎないからであり、また仮にA信号機にかゝる標識を付すると、王子駅方面から東北進し本件交差点で左折し、本件道路には進入せず、その入口で西進し別道路(北区役所豊島出張所方面に向うもの)に進入することまでも無用にも禁止するに至るからである。
交差点の信号機は、これと対面して通行する者が、当該交差点に進入するのを規制する(道路交通法施行例二条)にすぎず、これらの者が交差点通過後、これにつづく道路に進入することまで規制するものではない。従つて本件道路南口に設置されたB信号機が本件道路の歩行者専用時間帯にも拘らず、青色燈火を現示しても、右はB信号機に対面して通行する者の本件交差点進入を許容するにすぎないもので、本件道路進入を許すことを意味するものではない。本件道路進入の可否は本件歩行者専用標識の示すところによる。このことは運転免許を取得した通常の運転者にとつては、きわめて明白なことである。
従つて本件信号機に原告主張のような措置がとられていないからとて、これをもつてその設置管理につき瑕疵があるということはできない。
五本件歩行者専用標識および本件ダルマ標識の設置管理の瑕疵
(一) 右各標識の設置管理状況
<証拠>によると、次の事実が認められる。
1 本件歩行者専用標識の構造等
本件歩行者専用標識は、別紙図面記載の各位置で、本件道路南口の道路両側に進入車両に向けられて設置され、いずれも地上から約二メートルないし約3.5メートルの位置にあり、直径六〇センチメートルの円形青色地の標識板に白色で人および自転車の絵が浮き出ている規制標識と、縦二二センチメートル横四〇センチメートルの長方形白色地の標識板に横書きの黒色で「歩行者用道路・16―19」と記載した補助標識をもつて構成され、これらは、「道路標識、区画線および道路標示に関する命令」に定められた様式の規格品で、いずれも色彩は鮮明である。
本件道路南口東側には、歩行者専用標識の下に、これと同一の標識取り付け用鉄パイプを使用し、円形で直径六〇センチメートルの「二輪の自動車以外の自動車通行止め」の規制標識とさらにその下方に長方形で縦三〇センチメートル、横四〇センチメートルの標識板に横書きで「最大積載量三トン以上の貨物(指定車両を除く)」と記載された補助標識とが設置されている。
これら標識のわずか後方に本件交差点に向けて縦書きで「子供の自転車・とび出しに注意せよ・王子警察署・王子交通安全協会」と記載された立て札がある。
本件道路南口西側には、歩行者専用標識のほかに、その左側横の歩道上に標識取り付け用鉄パイプを建て、これに前記同様の「二輪の自動車以外の自動車通行止め」の規制標識とその補助標識および駐車禁止標識が設置されている。
本件道路南口付近には右のほかに本件交差点からみて、本件歩行者専用標識と重なつたり接着した看板、立て札、表示物等はない。
2 右標識の視認
本件停止線の東北方一〇メートルの地点にある横断歩道の西北側歩道上には、電柱が建てられ、右電柱の地上約2.5メートルないし3メートル付近には東南に向いた歩行者用信号機および東北方西新井方面に向いた歩行者用信号機がそれぞれ取り付けられており、右歩道の西北側にはこれに沿つて二階建の建物があり、右建物の西新井方向側前面に布製の日除けが張り出されている。
本件停止線から、本件道路南口の両側にある本件歩行者専用標識を見とおすことは右建物等の障害物のためきわめて困難であるが、右横断歩道上からは本件歩行者専用標識が設置されていることを明瞭に見とおすことができる。前記立て札も色彩形状からみて右標識視認の妨げとならない。
3 本件ダルマ標識の構造等
本件ダルマ標識は、右商店会会員が資金を出し合つて作製したもので、標示板上白色地に赤色の車両通行止め道路標識と類似のマークが描かれ、黒色縦書きで「午後四時〜七時・車両通行止・王子警察署」と記載されている。
王子警察署長は昭和四六年九月前記歩行者専用とする交通規制を実施した際、右商店会がこれに即応して右時間中に限り本件ダルマ標識を本件道路南口の道路中央部に設置するのを黙認した。その後昭和四七年一月都公安委員会が前記のように本件歩行者専用標識を設けたにもかかわらず、右商店会は時々忘れることはあつても、右規制時間中本件道路上に本件ダルマ標識を設置することを続けてきた。
右商店会は本件事故当日右規制開始の午後四時を三〇分経過しても所定の場所に本件ダルマ標識を設置しなかつた。
以上の事実が認められ、右認定を覆ええすに足りる証拠はない。
(二) 右各標識の設置管理の瑕疵
1 本件歩行者専用標識
右標識を、本件停止線に停車中の車両から見とおすことはきわめて困難である。しかし、右車両が前進して横断歩道にさしかかり、そこで左折して本件道路に進入しようとすれば、そこから右標識までの距離は二四メートルであつてその位置、方向、大きさ、色彩にかんがみ、これを充分見とおすことができる。従つて右車両の運転者は通常の場合、横断歩道上において本件道路につき歩行者自転車専用の規制がなされていることを知り得るし、もしこの地点で右標識に気づかなくても左折前進すれば、本件道路南口に到達する迄の間にその東西にひとしく設置された右標識を補助標識を含め十分に認識し、これに従つた運転をすることができる。
このような次第で本件歩行者専用標識は交通の安全を確保すべき機能を全うしないものとはいえない。
附言するに、歩行者専用時間中本件道路に進入しようとする車両を完全に阻止し歩行者の安全を図るには、道路出入口に柵を設けるのが良策であろうが、道路交通法上都公安委員会にかかる物件を道路上に設ける権限を与えておらず、しかも本件交差点附近の前示状況から見て、本件歩行者専用標識が通常の運転者にとつて容易に目につく場所に設置されているから、柵等を欠いても交通の安全確保に瑕疵ありとはいえない。
2 本件ダルマ標識
右標識は都公安委員会又は王子警察署長が法令又は自らの意思にもとづき設置管理したものでなく、右商店会が設置管理したものである。従つて、王子警察署長がその設置管理を黙認したところで、これは公の営造物とはいえないから、これに国家賠償法二条を適用することはできない。
六結論
以上の通りであるから、その余の判断をするまでもなく、原告らの被告都に対する請求は理由がなく、これを棄却すべきである。
第二被告猛、同金に対する請求
一事故の発生
前記第一の一の事実は、被告猛、同金との間にも争いがない。
二責任原因
(一) 被告猛の責任
被告金本人尋問の結果によれば、被告猛は、加害車を所有していたことが認められるから、特段の事情の顕れない本件では、被告猛は、これを自己のため運行の用に供していたというべく、自賠法三条にもとづき本件事故により原告らの蒙つた後記損害を賠償する義務を負う。
(二) 被告金の責任
1 事実
<証拠>によると、次の事実が認められる。
(1) 本件道路の状況等は前記二および同五(一)1記載のとおりである。なお本件道路の法定最高速度は四〇キロメートルである。被告金の本件道路進入時に本件ダルマ標識は設置されていなかつた。
(2) 被告金は、加害車を運転し、勤務先への帰途、王子駅方面から西新井方面に向けて本件交差点に差し掛り、対面するA信号機の現示する赤色燈火に従い他の二、三台の車両に続いて停止し、次に現示された青色燈火に従つて発進し左折して本件道路に進入したが、その際本件歩行者専用標識の存在に気付いていたけれども、注意して見なかつた。
被告金は、本件道路南口から約一〇〇メートルこれを北進した地点付近において、進路前方左側の歩道と車道の境界付近に三、四人の子供が遊んでいるのを発見し、用心してハンドルをやや右側に切りながらなお進行したところ、右子供らのうちの一人である真人が急に向きを変えて下を向いたまま急に進路前方に飛び出してきたため、ハンドルを右側に切りながら急制動の措置をとつたけれども間に合わず、真人に加害車前部左側を衝突させた。
以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
2 評価
被告金は、事故当時、本件道路が自転車および歩行者専用であつて、本件道路南口両側には本件歩行者専用標識が設置されていたのであるから、運転者としてこれを十分認識して本件道路に進入しないとの注意義務を負うのに、これを怠り、右標識に従わず漫然と本件道路に進入し、徐行をしないばかりか、時速約四〇キロメートルの速度で進行し、本件道路を通行中の真人に加害車を衝突させ、同人を死亡させたから、民法七〇九条により、原告らの蒙つた後記損害を賠償する義務を負う。
(三) 過失相殺
真人が、被告金の運転する加害車の進路前方に突然下を向いたまま飛び出して来たことは前示のとおりである。しかし、当時、本件道路は自転車および歩行者専用とされ、自転車以外の一般の車両の通行は禁止されていたから、真人は歩道のみならず車道をも通行できる(被告金や加害車が通行禁止の対象から除外されていたとはいえない。)。真人がその際、右禁止に違反して本件道路に進入する車両に備えて自ら注意を払わなかつたとしてもこれをもつて過失相殺の対象となる過失であるとはいえない。
三損害
(一) 入院治療費 各六五、一〇〇円
<証拠>によれば、原告らは、真人が本件事故により王子生協病院に入院し治療を受けたため、治療費等として一三〇、二〇〇円の支出を余儀なくされ、その二分の一である六五、一〇〇円ずつを負担したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 葬儀費 各一五〇、〇〇〇円
<証拠>によれば、原告らは、真人の事故死に伴い、葬儀を執行し、その費用として少なくとも四七三、七二〇円を下らない支出を余儀なくされたことが認められる。そのうち本件事故と相当因果関係にある金額は原告ら各一五〇、〇〇〇円というべきである。
(三) 真人の逸失利益ならびに原告らの相続 各六、〇〇〇、〇〇〇円
<証拠>によれば、真人は、昭和三九年六月一一日生れ、事故時満七才九か月の健康かつ成績優秀な男子であつたことが認められる。
してみると、真人は、本件事故にあわなければ、少なくとも中学校を卒業する満一五才九か月から五二年間就労可能であつたと推認できる。ここで中学校卒業時から就労可能と判定した理由は、真人の現実の最終学歴が原告ら主張の大学か、又はこれと異り高等学校かもしくは中学校かという、遠い将来に属する可能性を、本件に顕れた不十分な証拠によりせんさくすることを避け、抽象的な観察によつたが為に外ならない。すなわち、真人は中学校を卒業すれば、法律上(労働基準法五六条)も経済上も他人に雇傭されて労働することができるようになり、この時点をもつて一般的労働能力を取得するとみられるからである。
なお付言するに、かく判定したからとて、真人が中学卒業後上級学校へ進学できない程度の低い能力の持主であると認定したわけではないし、また後記のとおり労働省労働統計調査部作成賃金構造基本統計調査(いわゆる賃金センサス)にいう全年令平均給与額を基礎に計算し、養育費を控除する方式をとるかぎり、現在の賃金構造のもとでは、中学校卒業後労働能力を取得するとみる方が、高等学校又は大学卒業を基準とするよりも労働能力の評価において多額となるのである。
さて右五二年間の就労可能期間中、真人は、前記賃金センサス(昭和四八年)第一巻第二表産業計企業規模計中学校卒男子労働者全年令平均給与額(年額一、五三〇、三〇〇円)に昭和四八年六月(右統計調査の調査時)からその後の賃金上昇額(右給与額に約三二パーセントを乗じた額)を加算した額である二、〇二〇、〇〇〇円を毎年労働により得、その収入を得るための必要経費としてその五〇パーセントを必要とすると推認できる。
これを基礎として、真人の逸失利益の昭和四七年三月一四日の現価を、修正ライプニッツ式により年五分の割合による中間利息を控除して算定する。更に、右死亡時から右就労開始に至るまでの八年間の教育費として月額一〇、〇〇〇円(年額一二〇、〇〇〇円)を要するものとし、これについても修正ライプニッツ式によつて年五分の中間利息を控除して計算する。これを右逸失利益の現価から控除すると、真人の損益相殺後の逸失利益の現価を得る。以上の数値は将来の予測に関し不確定な要素も含むほか、所詮は失われた労働能力の評価の重要資料にすぎない故、端数を調整して、真人の失つた労働能力の価値を一二、〇〇〇、〇〇〇円と評価する。
原告らが真人の相続人で他に相続人がないことは争いがないから、原告らは、真人の右損害賠償債権をそれぞれ争いのない二分の一の相続分に応じ二分の一ずつ即ち各六、〇〇〇、〇〇〇円宛相続により取得したというべきである。
(四) 原告らの慰藉料 各三、〇〇〇、〇〇〇円
前記認定の本件事故の態様、真人の年令、将来原告らとの関係等その他本件に顕われた一切の事情を考慮すると、原告らの蒙つた精神的損害に対する慰藉料の額は、原告ら各自につき三、〇〇〇、〇〇〇円を相当とする。
(五) 損害の填補 二、五六五、一〇〇円
原告らが真人の事故死に伴い、自賠責保険から各二、五六五、一〇〇円を受領したことはその自認するところであるから、原告らの前記損害に各右金額を充当する。
(六) 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告らは、弁護士である本件訴訟代理人に本件の追行を委任し、手数料および成功報酬として原告ら本件損害賠償請求額の各五分ずつを第一審判決言渡の日に支払う旨約したことが認められるが、本件事故の態様、審理の経過、認容額等に照らし、原告らが被告猛、同金に対し、事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、手数料および成功報酬を含め、原告ら各自六五〇、〇〇〇円と認めるのを相当とする。
四結論
以上によつて明らかなように、原告らは被告猛、同金に対し、各七、三〇〇、〇〇〇円およびうち弁護士費用を除く各六、六五〇、〇〇〇円に対する事故発生の日である昭和四七年三月一四日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各自支払いを求める権利があるから、原告らの右被告両名に対する請求は理由があり認容すべきであるがその余の請求は失当として棄却すべきである。
第三むすび
以上のほか訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(沖野威 田中康久 玉城征駟郎)